福岡地方裁判所 平成3年(わ)461号 判決 1991年8月07日
本店所在地
福岡県早良区曙二丁目一一番二二号
有限会社
モリゼン
(右代表者代表取締役 久保田守)
本籍
滋賀県彦根市栄町一丁目二三番地
住居
福岡市南区西長住二丁目一一番一号
会社役員
久保田守
昭和一六年九月二四日生
右両名に対する各法人税法違反、右久保田守に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官都甲雅俊出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
一 被告人有限会社モリゼンを罰金六〇〇万円に、被告人久保田守を懲役一年及び罰金一二〇〇万円に各処する。
一 被告人久保田守においてその罰金を完納することができないときは、金三万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
一 被告人久保田守に対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人有限会社モリゼン(以下「被告会社」という。)は、福岡市早良区曙二丁目一一番二二号に本店を置き、金融業を目的とする資本金一千万円の有限会社であり、被告人久保田守は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括するとともに、個人で金融業を営んでいたものであるが、
第一 被告人久保田は、自己の所得税を免れようと企て、申告に際し真実の所得金額を隠蔽し、ことさらに過少な金額を記載した申告書を作成するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和六一年分の実際所得金額が八四六八万六六四三円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同六二年三月一三日、同区百道一丁目五番二二号所在の所轄西福岡税務署において、同税務署長に対し、同六一年分の所得金額が四二〇万四〇四円で、これに対する、所得税額が一〇万四八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同六一年分の正規の所得税額四五三八万五九〇〇円と右申告税額との差額四五二八万一一〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)
第二 被告人久保田は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、公表経理上収支の一部を除外するなどの方法により、その所得を秘匿した上、
一 同六一年一月一日から同年一二月三一日迄の事業年度における被告会社の所得金額が一四五五万一三五〇円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同六二年二月二六日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一三二二万八一五二円の欠損で、納付すべき法人税額は存しない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額五三一万六五〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、
二 同六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の所得金額が四〇七五万二九三二円(別紙(五)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同六三年二月二五日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四七二万五二一七円の欠損で、納付すべき法人税額は存しない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一六一五万五〇〇〇円(別紙(六)税額計算書参照)を免れたものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 収税官吏の被告人に対する各質問てん末書
一 被告人の検察官に対する各供述調書
一 被告人作成の各申述書
一 収税官吏の北田肇及び衛藤光宣に対する各質問てん末書
一 収税官吏作成の平成元年一二月八日付け査察官調査書
判示第一の事実について
一 収税官吏の久保田敬子に対する質問てん末書
一 収税官吏作成の脱税額計算書(昭和六一年分)
一 収税官吏作成の脱税額計算書説明資料(被告人久保田に関するもの)
一 収税官吏作成の平成元年一二月二五日付け、同月一四日付け(被告人久保田に関するもの)、同月二〇日付け(被告人久保田に関するもの)、同月一九日付け及び同月二二日付け各査察官調査書
一 収税官吏作成の各査察官報告書
一 押収してある六一年分の所得税の確定申告書一綴(平成三年押第一三七号の3)
判示第二の各事実について
一 収税官吏作成の脱税額計算書説明資料(被告会社に関するもの)
一 収税官吏作成の平成元年一二月二〇日付け(被告会社に関するもの)、同月二六日付け及び同月一四日付け (被告会社に関するもの)各査察官調査書
判示第二の一の事実について
一 収税官吏作成の脱税額計算書(自昭和六一年一月一日至昭和六一年一二月三一日)
一 押収してある確定申告書一綴(前同押号の2)
判示第二の二の事実について
一 収税官吏作成の脱税額計算書(自昭和六二年一月一日至昭和六二年一二月三一日)
一 押収してある確定申告書一綴(前同押号の1)
(法令の適用)
被告人久保田守の判示第一の所為は、所得税法二三八条一項に、判示第二の各所為は、法人税法一五九条一項に該当するが、所定刑中判示第一の罪については懲役刑と罰金刑とを併科し、判示第二の各罪については懲役刑を選択し、判示第一の罪については、情状により所得税法二三八条二項を適用し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、右加重した刑期及びその所定金額の範囲内で同被告人を懲役一年及び罰金一二〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金三万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
被告人久保田の判示第二の各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処すべきところ、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金六〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は、金融業を営む被告人久保田が、その所得を隠蔽するなどして、約八〇四八万円の所得を隠匿し、約四五二八万円の所得税を免れ、更に右事業が法人成りした後も、被告会社の二期分合計約五五三〇万円の所得を隠匿し、合計約二一四七万円の法人税を免れたという事案であるが、逋脱額が相当多額に上っており、逋脱率も所得税法違反が約九七パーセント、法人税法違反が一〇〇パーセントと極めて高率である。しかも、被告人久保田が、本件の発覚を困難にするため、証拠資料を廃棄したり、収支を簿外にするなどの行動にも出ていることも考慮すると犯情は芳しくなく、国民の基本的義務である納税義務を不正に免れた点において、強い非難に値する。
しかしながら、被告人久保田は、本件の摘発後は、すすんで真相を述べる等反省の態度も窺われ、また、既に修正申告をなし、本税等も分割払いで納付することとなっていること等被告人らに酌むべき事情も認められるので、以上の事情を総合考慮の上、被告人両名を主文の刑に処するのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 井口修 裁判官 梅本圭一郎)